ミニマリズムがもたらすもの
ブログのようなレビュー
町がさびれ夫を亡くし、経済的困窮などの理由から家を手放しヴァンに住みながら、
季節労働者としてアメリカ各地を放浪する初老の女性ファーンのお話。
NOMAD(ノマド) = 遊牧民
学校の代理教員をしたことのあるファーン、
ホームセンターでばったり会った教え子から「先生はホームレスになったの?」と訊かれ、
「ホームレス(=浮浪者)じゃなくて、“ハウスレス”(=家なし)になったの」と答える。
さて、この年齢の女性のノマド生活とはどんなものになるのか?
コロナ緊急事態宣言の間を縫って公開されたこの映画を私がまっさきに観に行った理由は、
フランシス・マクドーマンドが出ているからとか作品の評判がいいからということ以上に、
ノマドの実態が気になっていたからだ。
ホントあの人たちどうやって生活してるのかな?
正直、他人事ではないとちょっと思っている。
「タイニーハウス」をご存知だろうか?
私がタイニーハウスに興味を持ったのは、かれこれ15年ほど前になる。
アパートの1Kひとり暮らし、仕事や趣味の物が部屋に溢れていた。
広いとは言えないが、それでも、
「ヒト一人暮らすのに、ずいぶんお金や物やスペースが要るんだなぁ…」
と時々ぼんやりと考えていた。
タイニーハウスとは、その名のとおり「小さな家」のこと。
1970年代頃はじまり2000年代に本格化したアメリカのムーヴメントで、
大きな家に暮らすのがステイタスであり普通という考えに疑問を呈し、
小さな家で、必要なもの好きなものだけで暮らすというライフスタイルを打ち出した動きだ。
今で言う「ミニマリスト」の大枠のところの先駆けという感じか。
考え方としては、生活コストの削減、資源の節約、ゴミなどの廃棄物の削減など、
利己的、利他的、両方の目的を持っている。
タイニーハウスはDIYで建てる人が多く、
狭いスペースを工夫して持ち主それぞれの趣味が活かされた雰囲気、
絵本に出てきそうなそんな家の写真を見ていると、子供の秘密基地のようでワクワクした。
そのいくつかには、家自体にタイヤが着いているものがあり、それを見た時に、
「そうか、移動できるんだ!」私の胸はさらに踊った。
最近はキャンピングカーやヴァンを改造して車中泊など、
日本でも趣味でやっている人(一部実用系の人あり)が増えてきた。
移動できる家なんて、タイニーハウスよりもっと自由じゃないか、
軽快に移動しながら暮らすのはいいかもなぁ。
とはいえ、この映画の主人公ファーンのような人は、そんな気楽な感じではない。
家を持ち続けるのが難しく、仕事もなく、年金もない、
現実的な理由で生活のダウンサイジングの選択肢としてノマドを選んだ、
シビアな車中泊生活者だ。
ファーンは、家を手放して残った物を貸し倉庫に押し込み、
その中からわずかな物だけをピックアップしてヴァンに乗せる。
父から貰った思い出の皿、亡き夫の匂いの残るジャケット。
彼女のヴァンは、廃材で改装したのか、出発前からすでにシミったれた印象だ。
小さなヴァンに乗り込んで、あてもなく、誰も自分を知らない世界へ、
彼女は放浪の道へ走り出す。
この場面での、未知への不安としがらみからの開放感が好きだ。
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