ノマドランド NOMADLAND (N-5)

CINEMA-2
NOMADLAND | Official Trailer | Searchlight Pictures

ミニマリズムがもたらすもの

ブログのようなレビュー 《ネタバレあり》

(つづき)

『ノマドランド』を観て思うこと

この映画で扱われている高齢者ノマドは生活困窮者が多く、気楽な立場ではない。
ただ、この人たちは、ある意味、貧困の中でもよりマシな生き方を見出して実践している
サバイバーだと思う。
もし、一ヶ所に止まって家も持てないとなると、仕事は限られ、
最悪は路上生活者になってしまうかもしれない。
車を家にして、仕事のあるところに移動しながら生活するのはうまい方法で、
ニッチで前向きな生き残り手段だと思う。

この映画には、若者のノマドも数人見かけるけれど、彼らは車を持っていなくて徒歩移動、
ヒッピーのような雰囲気だ。
生き方のポリシーを掲げていた昔のヒッピーとは違い、
その顔には世間に疲れたような無気力さが漂い、現代を反映しているように見える。
彼らの状況よりも、車に生活環境を整えた高齢者ノマドの方が、
まだ経済的に恵まれているのかもしれない。

アメリカの車ノマドがうらやましいのは、広大な土地とその風景。
ファーンが移動しているアメリカ西部は、国立公園の宝庫で、
ダイナミックな自然の風景に事欠かない。
大きな自然の中にひとり佇むと、その空気の中に自分が溶け込んでいくような、
美しく幸せな時間を体験できる。
現実の生活の苦労はあっても、人生でこの上ない貴重な時間を持てる機会があるのは、
大きなチャンスでもある。

この映画を映画館で初めて観た時は、
「高齢者」「貧困」「放浪」に加えこの哀しげな音楽に乗せられて、暗い気分で観てしまった。
あんな汚い車だし、トイレはバケツだし、バイトは単純作業の肉体労働で大変だな、
と不安な気持ちになった。

映画館で2回、動画配信で5回観ると、初めの印象とは変わってきた。
ファーンは、行く先々で、同僚や仲間とのちょっとした交流や美しい自然とふれあい、
彼女なりにわりと楽しんでいる様子だ。
それはフランシス・マクドーマンドが持つ地のキャラクターのせいもあり、
おかげで悲観的なドツボに陥らずに済んでいるところもある。
あの車は、少々汚なすぎるけれど、私が暗い気分で観た印象ほどには
悪い状況ではないのかもしれない。

コインランドリーで待ち時間にジグソーパズルをする彼女の姿、
アヴェンジャーズが上映されている映画館の前を歩く彼女の姿、
一般的な生活をしている人が見ると、侘しく見えるかもしれないけれど、
自分で稼いでちゃんと生活していて、サンドイッチを食べながら編み物をする余裕もある、
十分幸せな感じに見えてきた。

他人事ではないと思って観た映画だったので、何度も観れば観るほど、
私の気持ちも前向きになってきた。

例えば、日本で車ノマドを現実的な選択肢として可能にするには、
少なくとも、住民票などの社会制度やシステムの変更と、地域の受け入れ体制の構築が必要。
今現在の社会制度では、気軽に移動しづらい。
また、地方にありがちな閉鎖的な気風も、オープンな方向に変えていかなければならないし、
アメリカと違い、駐車に困ることも圧倒的に多いだろうから、インフラの対応も必要。
車ノマドに限らず、アドレスホップがもっと簡単になれば、
地方の活性化の一因になり、お互いにWin-Winになる可能性があるのでは、
とちょっと思ったりする。

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